物語の記号 - 4/5

 少女も年ごろの女の子である。故に恋をする。恋をしてしまった。見目が美しく、りりしく、会話が楽しくていつも姉の妹だからと優しく接して構ってくれる男だ。姉と彼の間には婚約が結ばれていたけれど、男は明らかに姉よりも少女を愛してくれていた。こんなに愛し合っているのに、しかし彼の婚約者は姉である。
 確かに優秀だけれど、彼女は愛嬌もなければ表情もほとんど動かず、頭だけの女で男を立てる事を知らない、と男は言う。

 その点君は、と柔らかな紅色の頬を撫でながら、こんなに愛らしくて人を惹きつける才能がある、愛嬌があってくるくると変わる表情は見ていて飽きない、見目にもしっかり拘っていてとても似合っている、君が婚約者であったら良かったのに、と男は告げる。
 まぁ、と少女の頬がばら色に染まった。しかし立ちはだかる姉の婚約、という障害を前に、目に涙を溜めながら男の胸に飛びついた。姉は本当は可哀そうな人なんです、だからせめて私が、そして婚約者の方とも良く過ごせるように、と私も心を砕いているんです。あぁでも、こんなにも胸が張り裂けそう、私は貴方にも幸せになってもらいたい、貴方を愛しているんです……貴方と、幸せになりたい。少女の告白に、男は感極まって強く抱きしめながら唇を重ねた。

 深くて長い口付けを何度も角度を変えて繰り返す。姉の婚約者との秘密の逢瀬。感情が高ぶり盛り上がった彼らは欲望を抑えきれなかった。男が言う。近い内あの女とは、婚約を破棄しよう、そして君と結び直すんだ、と。嬉しい、嬉しい……愛してるわ、と少女が返す。
 日が傾き始めた家の庭園、その影で、一組の男女がもつれ合っていたのを、すらりとしたシルエットが一つ、ただ見ていた。

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