白き焔と出会いの話 - 2/5

拠点にしている街からさほど離れていない森の中、星の瞬く夜半過ぎ――の、白い靄がかかって暗さ以上に視界が悪い獣道。
日が落ちる前、歩いていた場所を思えば、冒険者に成りたての頃にゴブリンとやり合った洞窟の付近よりも奥まっているだろうか。依頼を受けずにちょっとした休暇を少しだけとる事にした冒険者パーティ、灯銀の翼リーダーであるルーツィエはすっかり方向を見失って困り果てていた。

「……お前のせいだぞ」
「きゅ?」

片手で抱くは色素のほとんどない薄桃色の毛並みを持ち、動物であれば耳や尻尾に値する部分が白い焔となって揺らめいている小型の魔獣だ。
可愛らしく鳴き声を上げて、つぶらな橙色の瞳を向けてくるそれはいかにも無害である、と言っているような様相をしている。が、ルーツィエは身を持って知っていた。

この魔獣は他の生命力を吸い上げ、己の命や技とする種だ。

もっともそういった種族にしてはこれは扱いやすい方、というか穏やかな方ではあるのだが。己でも体力に自信がありタフだと自負しているルーツィエからすれば吸い上げられる量はさほど辛くない。少しばかりだるさがあるくらいか。
出会い直後、怪我をしていた魔獣はたまたま近場にいたルーツィエの生命力を糧として、軽傷だったとは言えすっかり癒えて今は毛並みもつやつやだ。

「どうすっかな……」

とはいえ魔獣は交戦中、というよりはあれは遊ばれていたのだろうけど。そんな最中に通りがかり、巻き込まれた形になったルーツィエはぽつりと呟く。
直後耳を撫でるくすくすとした笑い声、鈴の転がるような可憐な音にぞわりと背筋が粟立ち、なるべく気配を殺して行くべき方向も分からぬまま歩みを進めた。どこから聞こえてくるかもわからない、どこにいるかもわからないものから、さて、無事に逃げおおせられるだろうか。

近頃、奇妙な噂は聞いていた。どういうわけか精霊や妖精の類がこの付近で数を増やしているらしい。
それに付随するような話として、どこぞの魔術師だかその手の学者だかが人工精霊なるものを研究し、それなりの功績を挙げていた中である日突然姿を消した――何が目的かは知れないがその人物が何かをしているのではないだろうかと。

あくまで噂は、噂だ。ただその調査依頼なども出回っていたらしいが、自分たちは冒険者として駆け出しも駆け出しである。格上であろうそういったものとの厄介事に手を出すのはまだ早い。
そうでなくても今は苦労をする事も多いのだから。冒険者はもとより危険を承知でなるものだけれど、その危険をできるだけ避けられるようにはするべきだ。

(……シャムシエルの言葉に甘えて一緒に帰っていれば、俺一人にもならなかったか)

身体に纏わりつく靄のようなものを時折振り払うように腕で宙を切りながら、従来一人だと考え込みがちな頭が後悔と反省を繰り返し始める。そんな思考は後にすべきであると、両親にも口酸っぱく言われていたのに、生来の癖はなかなか思い通りになってはくれない。

(あいつがいたらもう少しくらい余裕は……いや、そもそも近辺での妙な噂がある中で、本当に一人でうろうろするってのは良くなくて)

彼へ会いに行くのに、パーティメンバーの誰かがいるというのもと思ってはしまうけど。だがあちらの宿に保護者のいる子どもの天使もいたのだから。
彼女だって子どもではあるけど立派な冒険者で、連れ立っていれば。

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