白き焔と出会いの話 - 3/5

「きゅっ!きゅぁ!!」
「っ!」

甲高い鳴き声で意識がはっと戻る。前へ、どこかへ進んでいたけれど、考え事をしながらでは目の前の危険でさえ察知は遅くなる。ましてや己はまだ経験も少ない冒険者で――。

「くっそ!!」

空気が一気に冷え込んだ。纏わりついていた靄が微かにパキパキと音を鳴らしながら、凍りついていく。かち、と寒さに歯が鳴った。

――これは違うものがいる。否、自分は知っている。

と、眼前に何かが姿を表した。輪郭は随分ぼんやりとしているけれど、女性的な形をしたそれはくすくす、くすくす、と笑いながら真白な両手らしき箇所を伸ばしてルーツィエの頬に触れる。そしてその片手が、両の目の、元の色合いではない方へと伸ばされた。

「 、ッ ――……」

ヒュゥ、と冷たすぎる空気が喉を通る。凍てつく程ではないけれど、そもそもこの感覚に嫌悪感を覚える。それは空気だけではなくて、細かな粒子が内側を埋めていくような。
そうしてこの身は作り変えられたのだから。……”家族”が、目の前で、作り変えられたのだから。

凍てつくような冷たさはとは別として、身体が動かない。心臓がどくどくと強く脈打つ。呼吸が浅くなる。
それはそうだ。この存在は――精霊恐怖症トラウマの対象だ。

文字通り身も心も凍りついたルーツィエの腕の中で、魔獣の白き焔が大きく膨らんだ。
同時に最初の比ではないくらい、身体に酷いだるさを覚える。

「げほっ、っ、ぐ……ッ……ぅ……!」

違和感の残る喉に手を当てて軽く咳き込んだ。それで全ての違和感がなくなりはしないが、魔獣の魔力を帯びた焔が空気を暖め、小さな白い火の粉が心身の症状を和らげる。
どうもこの魔獣は己が逃げれば良いものを、ルーツィエを助けてくれているらしい。
何故だとかそういった理由を今考えるような暇はない、動けるならばともかく逃げなくては。離れなければ。

「ギュ、ぁァ~~~~ッッ!!」
「ぅ、わっ、ちょ……待て、っ!」

魔を帯びた咆哮。びりびりと鼓膜が震えると同時に、吸われていく感覚。
多分、渾身の抵抗を試みているのだ、この魔獣は。だが、相手は|まともな精神を持っていない《こころをもたない》。
相手がまともであれば酷く怯ませるであろうその抵抗は、ほとんど意味を成さない。つまり、相性が致命的に悪い。

一瞬揺らいだその姿は、けれどすぐに形を取り戻しこの小さな獣ごと自分を覆ってこようとする。最初はこの魔獣に巻き込まれたと思っていたのに、これは最早自分が巻き込んでいるようなものだ。

(だって、そうだろ)

意味がないかもしれないが、上着を広げて魔獣を自分の体とで包むように抱え込んだ。

(こいつ、俺を見てる)

唇を噛む。視線を上げる。暗い中でも、靄の中でも、ソレの様子は何故だかはっきり分かる。
ぼやけた輪郭がゆらゆらと揺れる。それはもう、楽しげに。

(――よんでいたんだ)

あの時逃した玩具を。
その目的は知れやしないし、目的なんて大層なものも無いのかもしれないけど。

そしてルーツィエは。
魔獣を抱きかかえたまま、きつく、目を瞑った。

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